我国では肺癌検診でどれくらいの方が肺癌と診断されているのでしょうか。胸部X線写真による検診は自営業、専業主婦、高齢の方などを中心に行っていますが、全国の平均では1万人に対して4ないし5人くらいの方で癌が発見されています。会社、企業で働く方は60歳以下の方が多く、当然発見数は少なくなっています。一方、胸部CTでは胸部X線写真による検診を受けている方でも10倍、あるいはそれ以上の方で癌が発見されることが水らしくありません。

いろんな癌の検診が有用かそうではないか、とのニュースは時にマスコミで報道されます。検診は役にたつのでしょうか。医学の研究の仕方は、人間を相手にすることが主で、いろんな制限があり、その結果難しい事柄がたくさんあります。検診に関することもそうです。

検診が役にたつものかどうかは、検診の結果、その癌で亡くなる人が減るかどうか、の確認が必要になります。

検診が役にたつかどうかは、ある市や町の多くの人を対象にする場合、ある集団には必ず検診を受けてもらう、一方他の集団には絶対に検診を受けないようにする、というようなことをして長年に渡って調べれば結果は出ます。しかし我国では結核検診以来、日常に検診は行われていますし、検診を受けなくても体の具合が悪ければ医療機関で検査を受けることが日常的に行われます。タバコを吸う高齢者だけを集めた集団と、タバコを吸わない若い人を集めた集団を比較しても意味はありません。またそもそも検診を受けようとする人は健康に注意する人の集団と、検診を考えたこともない不摂生な生活をする人の集団を比較しても、これまた意味はありません。さらにたとえ検診で癌が見つかっても治療にもかかわらずすぐに亡くなったのか、あるいは治療で何年もお元気なのかを調べなくては、これまた意味がないことになります。

2010年にアメリカで、胸部CT検診によりタバコをたくさん吸う人の死亡数が、7年にわたる調査で減少する、つまり検診が役に立つとの報告が出ました。現在、我国でもタバコをあまり吸わない、あるいは吸っていない人で胸部CT検診が役に立つかどうかの研究が実施され、一部の宇多津町住民の方が研究に参加されています。結果が出るのはまだ先のことです。それと胸部CT検診に必要な金額が高額であることも、住民検診として費用対効果のこともあって重要な問題です。

国は胸部X線写真による検診を勧めていますが、胸部CT検診は勧めていません。しかしCTで発見される肺癌は早期のことが多く、癌の発見は受診者個人にとって大変に大切なことです。

しかし検診は良いことばかりではありません。CTでも小さい陰影は診断が難しく、経過をみないと悪性かどうかが分からず、良性であればある期間、心配することになります。何回かCTを撮影すると被曝の問題もあります。また小さい陰影で癌が否定できないために手術をすると、結果的に良性であることも考えられます。

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アドリア海に面する港町、スプリット

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