前回は胃癌と大腸癌の内視鏡による検診のお話をしました。肺癌のことやその検診については、このシリーズを始めてすぐの頃、No.2、No.3で触れましたが、再度ここでお話をいたします。

CTによる肺癌検診は、今のところ我国では住民検診としては実施していません。アメリカではタバコをたくさん吸う人の集団で、CT検診の実施により死亡する人の減少が確認されました。我国ではタバコを吸わない人、あるいは吸っても少ない人の集団においてCT検診で死亡する人の減少があるかどうかの研究が実施中です。CTによる検診の問題点も含めて、このあたりのことは以前にお話しました。

しかし個人として肺癌かどうかを早く診断するのは大切なことでしょう。CTでは通常の胸部X線写真による検診よりも早期の小さい陰影が検出できる可能性があります。しかし小さい陰影でも癌が強く疑われる場合もありますが、普通は診断が難しくなります。以前は小さい陰影があれば癌も否定できないという理由で、早く手術を勧めた時期もありました。近年では癌の種類や大きさで進行の仕方に関する研究の蓄積がなされてきました。癌でも進行が非常にゆっくりで、ある大きさまでなら手術で確実に治ることが分かっているような場合も日常しばしば経験します。このよう小さい陰影を認めた場合、日本CT検診学会ではある一定の間隔で再検することをガイドラインで示しています。ある間隔のCT再検でも大きさが変わらない場合は、さらに間隔をあけて再検しますが、反対に短期間の経過で少しでも大きくなるような場合は、すぐに精密検査が必要になります。

私はこのような陰影をお持ちの受診された方、患者さんに「肺癌の疑いがある」、「まず肺癌です」とお伝えすることがあり、お聞きになられた方は驚かれますが、大きくなるのには数年もかかり急いで手術する必要はないことをお話します。

ゆっくりした癌としてはこのシリーズのNo.2でご紹介した、31歳の時に癌と診断され、遡ってみれば25歳の時の陰影が次第に増大してきたような方が、現在50歳代後半でお仕事を続けていらっしゃいます。他にも50歳前半で癌と診断された方で10数年も前の40歳の頃から陰影があり、この間ゆっくり増大した方もいらっしゃいます。この方の場合、それ以前の検査結果を見ることができないために詳細は不明ですが、増大速度からすると20歳代には陰影があったものと思われます。

 若い人だから癌の進行が必ずしも早いのではなく、癌の種類やその時期によることは以前にお話しました。いずれにしても医者なら誰が見ても癌と分かる場合から、癌を見慣れた医者でも癌とは思いにくい場合までがあります。信頼できる医師、施設にご相談ください。ハワイ003

夜のダイアモンドヘッド

ハワイ、アメリカ