私の父は10年ちょっと前に89歳で亡くなりました。仕事は国鉄に勤めていました。昭和30年代後半に、一軒おいた隣の酒とタバコ販売の店と、その営業権をゆずってもらい、以来、毎日の営業は母が行い、父は非番の日には母と一緒に店を営むことになりました。

 そんな時代、JTの前身である専売公社から新しいタバコの宣伝ポスターができ、店先に貼っていました。タバコの名前は「いこい」でした。にっこり笑うおじさんが頭に鉢巻をして無精ひげで、左耳にタバコを挟んでいます。そういえばあの頃、耳にタバコを挟んだ人を良く見ましたが、最近というかこの何年もそんな光景は見ていません。そのポスターのキャッチコピーは、「今日も元気だ たばこがうまい!」です。イケメンのスマートな男性や、スタイルのいい若いキャリアウーマンではなく、額に汗して働くおじさん、というイメージだったのでしょう。

 そんなある日、母が笑いながら「タバコのポスターに誰かが落書きをした」と言うのです。見ると「今日も元気だ たばこがうまい」の、「たばこが」の部分の「が」の字の右上の点々がマジックで消されていました。そうなると「今日も元気だ たばこかうまい」となり、母は「たばこ買うまい」となると言って笑っていました。今から思えば健康の時代を先取りした、とも考えられる大変印象的な思い出です。

 その頃、タバコは贈り物にもなっていました。タバコを5箱とか10箱を専用の紙製の箱を、いわば立体折り紙のように組み立て、入れる。そして包装紙で包む、と言うものです。病院の主治医への贈り物にする、という話も聞きました。父は若いときからタバコを吸っていて、店の商品を自分用にも使っていたことになります。年は移り、父が80歳になろうとした頃だったでしょうか、私が車を運転して家族で墓参りに行った時のことです。墓参りを済ませて、吸っていたタバコを消し、それをまた吸うつもりで車に持って入ろうとしました。そこで車の中がタバコ臭くなるのでやめるように言いますと、ああそうかと言って吸いかけのタバコを捨てました。

 なんとそれからタバコをやめたようで、しばらくして会った時に、吸ってない、と言うのです。そしてタバコをやめると体の調子が良い、とのこと。長年吸ってきた父でもやめると調子が良いと言うとは驚きでした。

 タバコはいつやめても遅くない!!を実感しました。

フンシャルの港ff5039b7b2024ba10d671c9678a08088

マデイラ諸島(大西洋上のアフリカ、モロッコ沖)

ポルトガル領(サッカーのロナウドの出身地)

 

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