放射線による画像診断。この放射線による診断はヒトの実物を見ているのではなく、いわゆる「影」を見ています。ヒトの体の変化がどのような画像、すなわち「影」を呈するかは、膨大な経験の積み重ねにより解析されてきており、今後も持続されていきます。

 一方、ヒトの体の実物を見て、その状態を把握するのは病理学です。CPCという言葉があります。最初のCは臨床、次のPは病理、最後のCはカンファレスの、各々の英語単語の頭文字を併せたもので、臨床経過と病理診断の関係を討論する、という意味の言葉です。主として患者さんの死亡後、病理解剖を行い、臨床経過との対比、検討を行う時に使われる言葉です。私が医師になって当初、病理の診断が最終診断のゴールデンスタンダードであると教わり、その後自分でもそのように思っていました。

 ところが近年はこの二者に放射線を加えて三者で解析をする、ということが広まっています。病理診断はある時点での診断であり、普通は繰り返して何度も行われるものではなく、死亡後では最終診断となるものです。一方、放射線診断は患者さんの病態にもよりますが、随時行うことが可能で、結果として経時的な変化を把握することが可能となります。肺の疾患の場合、詳細なCT画像と、病理標本でも顕微鏡で見るのではなく、ルーペ、つまり拡大鏡で見る範囲の像が、かなり近い状態で対比、検討ができることが分かるようになり、CTと病理の対比、という言葉も使われるようになりました。

 さてこのところ環境省の石綿被害判定の会議に出席するようになっています。この判定会議には放射線科医2名、病理医2名、内科か外科の臨床医1名の計5名で、石綿により発症する中皮腫という悪性腫瘍か否かを判定します。放射線科医、病理医、臨床医の全てが中皮腫と診断できるものもありますが。私は放射線科医ですので、CTで見て怪しい陰影はなくても病理医の検査で中皮腫と言えるなら問題なし、と言える症例や、放射線科医や病理医が中皮腫だろうとしても臨床医が、患者さんの病気の進行程度が中皮腫としては合致しない、というような症例もあります。それに加えて病理医から中皮腫が考えれるが、放射線科医が画像として矛盾しないなら問題なし、とされる症例もあります。こんなことは私が放射斜線科医になった頃は考えられないことです。

 放射線画像で誰が見てもこの疾患しかない、という当たり前のような陰影もありますが、これだ!と思っても実際は違っていた、ということもあります。他科の医師とも、また画像を作り出す診療放射線技師とも連携を取りながら、正しい診断に至ることができるよう、日々の勉強の積み重ねが重要です。

d4411da5e12298328a5b2d35d2b3f4ff

インカ帝国の天空の遺跡

マチュピチュ

ペルー

過去の記事一覧