医療法人社団清仁会 | 膠原病・腎臓病の専門施設です。その他消化器科・整形外科・肝臓病・糖尿病・心臓病・呼吸器病の専門外来も対応可能。

アーカイブ 放射線科画像診断センター長の独り言

  • HOME »
  • アーカイブ 放射線科画像診断センター長の独り言


.

 

放射線科画像診断センター長の独り言   No.120191月)

日本人の死因    

 昨年5月から本院に勤務しております佐藤功(さとうかたし)と申します。放射線科医として、放射線画像の読影を担当いたします。今まで放射線科医として、主として胸部疾患、すなわち呼吸器疾患に関する画像診断や核医学や気管支鏡による診療、あるいは疾患の基になる病態や解剖の研究をして参りました。そうした中で呼吸器の疾患やそれに関係する諸々のことで気の付いたこと、感じたことをこのホームページの小欄を借りてつぶやいてみたいと思います。

 まず第1回目。

 日本人の亡くなる原因、つまり死因の第一位は何かご存知でしょうか。多くの方がご存知、あるいは感じていらっしゃると思いますが、悪性腫瘍、癌です。毎年30万人台後半、40万人に近い方々が亡くなっています。その中で第一位、最も多くの方が亡くなるのが肺癌で、7万人以上の方が亡くなっています。中でも男性で第一位、女性では大腸がんに次いで第二位となっていて増加傾向にあります。繰り返して申し上げますが、この数字は毎年のことです。癌になる数、罹患数になると男性では胃癌、女性では乳癌、男女を合わせると大腸癌ですが、亡くなる方の数となると上記の通り、肺癌が多くなっています。

 それでは香川県では肺癌で亡くなる方の数ですが、毎年600人以上となっていて、これも徐々に増加傾向にあります。

 ちなみに交通事故死亡者数をみると、昨年1年間では全国で約3,500人、香川県内で48人と、少しずつですが減少傾向にあります。いかに肺癌で亡くなる方が多いかというのがお分かりいただけたものと思います。

 先ほど申しましたように癌になるのは胃癌、乳癌、大腸癌が多いの比べて、癌で亡くなるのは肺癌が多いのはなぜか。これは検診や医療機関への早めの受診をするか否か、ということに関係しているのではないか、と思います。バリウムや内視鏡による検査、マンモグラフィーや超音波による検査を定期的、あるいは早めの医療機関の受診が広まっているように感じています。

 肺癌では胸部X線写真(いわゆるレントゲン)による検査もありますが、CTによる検査も行われます。1901#1オランダ風車

風車

アムステルダム郊外、オランダ




.

放射線科画像診断センター長の独り言  No.220192月)

肺癌ってどんなもの?   

 肺癌に限らず、癌の進行度、いわば癌の進み具合に関して、巷で、若い人の癌は早く、年寄りの癌はゆっくり、だと聞いたことがあります。ところがこれは全くの誤りです。同じ臓器の癌でも種類と、その癌の時期、これを病期と言いますが、それらによって進行速度は異なります。

 肺癌について若い人で進行が速いということでは、20歳くらいの女子学生で肺癌になった方がいらっしゃいました。この方は進行が早くてお亡くなりになりました。しかし若くてもゆっくりの方もいらっしゃいます。31歳の女性で健康診断の胸部X線写真で異常陰影をチェックしました。直接お話を伺いますと、以前から肺炎で影がある、と言われ、以前の胸部X線写真を比較してみたところ、25歳の時から毎年撮影され、1年ごとに徐々に大きさを増し、6年間では明らかに増大しています。気管支鏡で肺癌との診断の元、左肺の下半分、下葉切除術が施行されました。現在、50歳台半ばで、お元気に仕事を続けておられます。

 どの臓器の癌でもいくつかの種類がありますが、肺癌はタバコの影響があるともいわれ多くの種類があります。その中で、腺癌、扁平上皮癌、小細胞癌、大細胞癌の四つが代表でしょう。そして肺癌のうち半数以上は腺癌で、次に扁平上皮癌が続き、小細胞癌や大細胞癌は少なくなってきます。

 この中で腺癌では進行がゆっくり進行する場合があります。上に述べた31歳で左肺の下葉切除の女性も腺癌でした。一方、小細胞癌は進行が速く、転移もしやすいことがあります。これらの肺癌の発生する場所も特徴があり、腺癌は肺の末梢、すなわち肺の奥の方であるのに対し、扁平上皮癌や小細胞癌は中枢気道、すなわち肺の入り口の気管支に発生します。しかし近年、扁平上皮癌は肺の末梢で発生することが多くなっています。

 肺癌と言えばタバコとの関連が指摘されます。上に述べた左下葉の腺癌だった方は非喫煙者ですが、タバコを吸わない、特に女性の肺癌は多くが腺癌です。以前、腺癌はタバコと関係がない、とも言われましたが、やはり喫煙者に多いことも分かっています。扁平上皮癌は喫煙者に多く、小細胞癌はほとんどが喫煙者です。

 なぜ末梢発生の癌が多くなったか。これはタバコにフィルターがなかった頃は、煙がきつくていっぱい吸えなかったものの、フィルターのタバコが増えて刺激も少なくなって煙をめいっぱい吸うため、とも言われます。扁平上皮癌での中枢発生が減少し、末梢発生が増加しているのは日本だけでなく世界的な傾向です。

 喫煙者が肺癌になるリスクはタバコを吸わない人に比べ、男性で4.4倍、女性で2.8倍と高くなると言われます。またタバコを吸わない人でも他人のタバコの煙を吸う、受動喫煙でも肺癌になるリスクは高くなります。1902#2ジャスパー、カナダ

 

 

ジャスパー、カナディアンロッキー、

カナダ

 

 

 




.

放射線科画像診断センター長の独り言 No.3(2019年3月)

肺癌検診って癌が見つかるの? 

 我国では肺癌検診でどれくらいの方が肺癌と診断されているのでしょうか。胸部X線写真による検診は自営業、専業主婦、高齢の方などを中心に行っていますが、全国の平均では1万人に対して4ないし5人くらいの方で癌が発見されています。会社、企業で働く方は60歳以下の方が多く、当然発見数は少なくなっています。一方、胸部CTでは胸部X線写真による検診を受けている方でも10倍、あるいはそれ以上の方で癌が発見されることが水らしくありません。

 いろんな癌の検診が有用かそうではないか、とのニュースは時にマスコミで報道されます。検診は役にたつのでしょうか。医学の研究の仕方は、人間を相手にすることが主で、いろんな制限があり、その結果難しい事柄がたくさんあります。検診に関することもそうです。

 検診が役にたつものかどうかは、検診の結果、その癌で亡くなる人が減るかどうか、の確認が必要になります。

 検診が役にたつかどうかは、ある市や町の多くの人を対象にする場合、ある集団には必ず検診を受けてもらう、一方他の集団には絶対に検診を受けないようにする、というようなことをして長年に渡って調べれば結果は出ます。しかし我国では結核検診以来、日常に検診は行われていますし、検診を受けなくても体の具合が悪ければ医療機関で検査を受けることが日常的に行われます。タバコを吸う高齢者だけを集めた集団と、タバコを吸わない若い人を集めた集団を比較しても意味はありません。またそもそも検診を受けようとする人は健康に注意する人の集団と、検診を考えたこともない不摂生な生活をする人の集団を比較しても、これまた意味はありません。さらにたとえ検診で癌が見つかっても治療にもかかわらずすぐに亡くなったのか、あるいは治療で何年もお元気なのかを調べなくては、これまた意味がないことになります。

 2010年にアメリカで、胸部CT検診によりタバコをたくさん吸う人の死亡数が、7年にわたる調査で減少する、つまり検診が役に立つとの報告が出ました。現在、我国でもタバコをあまり吸わない、あるいは吸っていない人で胸部CT検診が役に立つかどうかの研究が実施され、一部の宇多津町住民の方が研究に参加されています。結果が出るのはまだ先のことです。それと胸部CT検診に必要な金額が高額であることも、住民検診として費用対効果のこともあって重要な問題です。

 国は胸部X線写真による検診を勧めていますが、胸部CT検診は勧めていません。しかしCTで発見される肺癌は早期のことが多く、癌の発見は受診者個人にとって大変に大切なことです。

 しかし検診は良いことばかりではありません。CTでも小さい陰影は診断が難しく、経過をみないと悪性かどうかが分からず、良性であればある期間、心配することになります。何回かCTを撮影すると被曝の問題もあります。また小さい陰影で癌が否定できないために手術をすると、結果的に良性であることも考えられます。

1903#3スプリット

アドリア海に面する港町、スプリット

クロアチア

 




.

放射線科画像診断センター長の独り言 No.4(2019年4月)

肺癌の喀痰の検査について


肺癌の検査で痰の検査、これを喀痰細胞診と言いますがご存知でしょうか。肺に癌があって痰が出るときに一緒に癌細胞が出てくれば癌の診断ができる、ということはご理解いただけることと思います。


でも多くの方は検診で、胸部X線写真は撮ったことがあるが痰の検査はしたことがない、という方が多いのではないでしょうか。この喀痰細胞診は、基本的にはタバコをたくさん吸って癌の危険が高い、いわゆる高危険群の喫煙者に対して行われ、タバコを吸わない方、吸っていても吸う本数が多くない人には行いません。


それはなぜでしょう。タバコを吸う人には、口に近い気管支、すなわち中枢気道に発生する扁平上皮癌が多く発症しました。この場合、肺の奥の方で発生した痰が次第に口の方へ出ていく時、途中にある癌の表面をこすりながら出ようとして、結果的に痰の中に癌細胞が含まれることになります。痰が癌の表面をこする、つまり痰と癌の位置関係で単に必ずしも癌細胞が入るとは限りません。そのために喀痰細胞診は一回だけではなく複数回実施される、あるいは複数の日に採取した喀痰を検査することになります。喀痰細胞診の対象の方はタバコをたくさん吸う人、つまり喫煙指数が高い人になります。喫煙指数とは1日に吸う本数に吸った年数を乗じた数字になります。例えば1日に20本を30年間吸うと20かける30 の600になりますし、10本を40年なら400となる、というぐあいです。したがって喀痰細胞診の対象の方は、年齢が50歳以上で喫煙指数が600以上の場合、あるいは50歳未満でも最近、血痰があった方などを対象とするなど、一定の制限を設定するとことが普通です。


これは肺の末梢から発症する肺癌は腺癌が多く、この癌はタバコを吸わない人にも発症します。肺の末梢で癌が発症すると、そのさらに末梢、奥の方から出てくる痰が癌細胞を含んで口から出てくる可能性が非常に低くなってきます。と言うことで細胞を検査する検査師の負担が増え、費用もかかるため、費用対効果の観点からも検診ではタバコを吸わない人への喀痰細胞診は実施されません。


今回、肺癌における喀痰細胞診についてお話しましたが、喀痰細胞診で肺癌だけではなく他の癌の発見につながることがあります。痰が肺の奥で産生されて口から出ていく過程を考えてみれば分かることですが、その途中に癌があれば肺癌ではなく他の部位癌の細胞を持ってきてくれることが理解していただけることと思います。その代表例は喉頭癌です。肺癌は内科や呼吸器外科が取り扱う疾患で、喉頭癌は声を出す部位である声帯に発症し耳鼻咽喉科で取り扱う疾患というイメージがないでしょうか。喀痰細胞診で癌細胞が検出され、検査の結果は肺や気管支には異常がなく、耳鼻科紹介で喉頭癌が診断されることがあります。喉頭癌はタバコを吸うときの煙が通過するためか、タバコを吸う人に発症します。


タバコを吸う人、吸っていた人、濃厚に受動喫煙にさらされる人、このような方々は喀痰細胞診のことを頭に入れておいていただきたいと思います。

 

1904#4チェスキー・クルムロフ城

世界で一番美しいとされる村、

チェスキークルムロフ

チェコ




.

履歴の欠損事項(前半)       No.5(2019年5月)

 この欄も今まで肺癌のことを中心に述べてきました。ちょっと趣をかえて若かった昔のことを書いてみたいと思います。今回の以下の文と来月の続きの文は、坂出市医師会が発行する「坂出市医師会誌」の20193月発行の第90巻に掲載されたリレーエッセイを、坂出市医師会誌編集委員会の許可をいただき、再掲いたします。

***  ***  ***  ***  ***  ***  ***  ***   

 私の履歴には事実上の欠損事項がある。

 昭和536月から同年10月にかけての期間である。何をしていたか。パキスタンのカラコルム山群、7027mのスパンティックへの登山隊、カラコルム遠征隊に参加していた。

 当時、岡山大学放射線科に在籍していたものの雇用形態が国家公務員ではなく、したがって休職扱いがかなわず、一度退職して再度採用となることになった。その後、新設の香川医科大学に赴任する時に提出した履歴書上、この期間が欠損であったため、事務局から記載するよう指導があり、当時の隊長に依頼して「高所医学研究従事」で「パキスタンに赴いた」旨、証明していただき、現在はそれが正式な履歴となっている。歳は移り平成30年(2018年)、遠征40周年の記念会を開催した。参加隊員は7名で、私より若年者の2名がすでに鬼籍に入った。歳は経つものである。

 私にとっての初めての外国がパキスタンであった。その後、学会や家内との旅行でいくつかの国や地域を訪れたが、このパキスタンでの経験は最も強烈で印象に残るものである。それは何か。発展途上国、イスラム教国、首都のイスラマバードやラワルピンディなどの熱帯ともいえる地域から荒涼としたカラコルム山群の北方地域への、異なる民族や言語体系などの著しい環境の差、氷河や雪と岩の山群での登山活動、等々通常の旅行やはたまた生活では経験できないことの連続であったからであろう。 

 今、思い出しても印象的なことの一つは水であった。

 我々は登山に関する種々の手続きのためラワルピンディに2週間ほどだったか、滞在した。ホテルはトップクラスではなかったが、イギリスの旧植民地のためか、建物もしっかりしたきれいなホテルで、日本からのいくつかの登山隊も宿泊していた。出発前には生水は飲むまい、自販機でコーラか何か買えばいい、くらいに思っていたが、自販機がない。そこへホテルの従業員のおじさんが「この水は大丈夫」と言って冷たい水をポットに入れて持ってきてくれた。我々もまあいいか、と飲むしかなかったが、はたして、全員が下痢。早い者で翌日から、遅かった者で一週間目と、すごい下痢に罹った。他の日本からの登山隊の隊員には点滴をした者もいたようである。

 街中では瓶入りのコーラを飲むことが多かったが、路上の出店でチャイもよく飲んだ。濃い紅茶のたっぷり砂糖が入った飲み物で、湯を使うから良いだろうという判断である。これはおいしかった。

 山へは8000メートル級の山の間を飛ぶ飛行機で奥地に向かう。そこの街でポーターを百人雇い、追加の食料を買い入れるなどして、インダス川の源流を渡り、そこから一週間歩く、いわゆるキャラバンが始まる。氷河から流れ出るインダス川の水も炊事に使うことがあった。日本では雪解けの、山奥の水はきれいだという印象があるが、彼の地では全く違う。水を汲むと、水中にキラキラと光る微小の鉱物が観察され、しばらく放置しておくとそれらが沈殿し下に溜まるので、その上澄みを炊事用に使う。なるほど、ポーターや地元の住人の口内を見せてもらうと、虫歯はないものの歯がすり減った状態が観察される。日常的な炊事に利用するため当然の結果であろう。

 ベースキャンプは氷河上である。飲料水は氷河の表面を溶けて流れてたまった、氷河上の池の水であるため透明なきれいな、見た目には鉱物などの異物がないものであった。

1905#5スパンティック

 

チョゴルンマ氷河とスパンティック

パキスタン

 

PAGETOP